授乳中 安全な薬かどうかをエビデンスから考える

Noriko

こんにちは。
薬剤師のNorikoです。

最近薬物動態が面白くて色々勉強していますが、
気になる授乳婦さんへのお薬についてまとめてみました。

参考になるお勧めのテキストについてもご紹介します。

 



現在添付文書の記載の実態について

まず、お薬の添付文書を見ると
ほとんどのお薬に「授乳中の婦人への投与は避けることが望ましい」などの記載がありますね。

例え、安全性が高いと言われているお薬でも
添付文書にこう書かれてしまうと薬剤師的にも「大丈夫!」とは言いづらい・・・

 

「医師は問題ないって言ってましたけど、本当ですか?」

と聞かれたときに、
根拠を持って答えられないと
せっかく薬剤師として信頼して聞いてくれているのに残念だな〜
ということでしっかり学び直しました。

 

 

Noriko
授乳育児をしたことがない若い方や男性は、
「薬を飲んでいる間だけミルクにすればいいじゃん」
と気軽に思うかもしれません。でも、実際はそんなに簡単なものではありません。
母乳育児をされている方は、
薬を服用することで授乳ができなくなるなら
薬を我慢した方がマシ!
と思われる方がほとんどです。
(私もそうでした。)
なので、本当に自分の体調を犠牲にしてまで我慢しなければいけないのか
薬学的な根拠をお伝えすると、救われるママも増えるんじゃないかなと思います。

 

 

では、まず授乳に移行しやすい薬とはどんなものでしょうか
その確認からしたいと思います。

 

乳汁に移行しやすいお薬の特徴

 

①脂溶性が高い
②分子量が小さい
③血漿蛋白結合率が低い
④生物学的利用率が高い
⑤消失半減期が長い
⑥分布容積が大きい
⑦弱塩基性薬剤
それぞれについて理由がありますので
一つ一つまとめていこうと思います。

①脂溶性が高い

脂溶性の薬剤は腺房細胞膜を通りやすいため,母乳中へ移行しやすくなります。
これは細胞膜が基本的に脂質からなる膜でできているため、脂質に溶けやすい脂溶性の薬剤は腺房細胞に取り込まれる速度が速くなるためです。

 

②分子量が小さい

ほとんどの薬剤は分子量 250 ~ 500 ダルトンと言われています。
分子量が小さい薬剤ほど母乳中へ移行しやすくなります
分子量が大きいヘパリン(30000 ダルトン), インスリン(6000 ダルトン以上),インターフェロ ン(22500 ダルトン)などは母乳中にほとんど移行しないとされています。

③血漿蛋白結合率が低い

血漿中で薬剤は,血漿蛋白(アルブミンなど)と結合した結合型と非結合型(遊離型)に分けられます。
蛋白と結合すると腺房細胞の細胞膜を通過できないため、蛋白と結合した薬剤は母乳中へ移行しません。

 

④生物学的利用率が高い

直接血中に到達する静脈注射と異なり、経口投与の場合、消化管からの吸収や、肝臓などによる代謝の影響を受けるため、
実際は全てが利用されるわけではありません。
この利用率が高いほど、授乳への移行も高くなるとされています。

⑤消失半減期が長い

半減期の長い薬剤は,母親の血漿中薬剤濃度が高い時間が持続するため、母乳への移行も増加するとされています。このため、なるべく効果が短時間の薬剤を使用する方が望ましいとされています。
一般的に半減期の約 5 倍の時間(血漿中濃度は 32 分の 1 になる)が経過すれば,母親の体内にそ の薬剤はなくなったと考えられています。

 

⑥イオン化

薬剤は弱酸性薬剤、弱塩基性薬剤、中性薬剤の 3 つに分類され
マイナスやプラスに荷電した薬剤をイオン型とい い,中性薬剤はイオン化しないため非イオン型と呼びます。
イオン型薬剤は,細胞膜を通過できず、イオ ン化しなかった弱酸性・弱塩基性薬剤と中性薬剤だけが濃度差の拡散で通過します
薬剤の解離定数(pKa)と血漿 pH や母乳 pH が、薬剤のイオン化に影響しますが、血漿の pH は 7.4,母乳は 6.6 ~ 7.0 であるため、弱酸性薬剤(pKa が低い薬剤)は母体血漿中で大部分がイオン型となり、母乳への移行が減少します。
逆に弱塩基性薬剤(pKa が高い薬剤)は、弱塩基性の母体血漿中ではイオン化しにくく、細胞膜を通過し母乳へ移行しやすくなります。
つまり、pKa が高いほど母乳中の薬剤濃度が上昇すると考えられます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

参考:昭和学士会誌 第73巻 第 4 号〔 301-306 頁,2013 〕

 

Noriko

というわけで、
それぞれの理由がわかると納得ですね。

また、
安全性の指標としてとても役に立つものがあります。
こちらは具体的な数値で判断ができるのでとても役に立ちます。

 

乳汁中移行の指標となるもの

 

❶M/P比
❷RID

❶M/P比

Milk Plasma Ratio 

M/P比=薬物の乳汁中濃度/母体の薬物血漿中濃度

 

M/P比が1未満なら乳汁移行は少ない

とされています。

 

RID(相対的乳児投与量)

Relative Infant Dose

RID=乳児薬物摂取量/母親薬物接収量×100

 

RIDが10%以下であれば、
問題なく授乳を続けることができるとされています。

 

RIDはM/P比や体重などから計算できますが、
M/P比は添付文書上では書かれていないことが多いようです。

後ほどご紹介するテキスト
『薬物動態マスター術』では

M/P比がわからない時は最大に見積もり、5で計算すると良いと紹介されています。

最大に見積もってもRIDが10%以下なら安全と言えますね。

計算はちょっとややこしいですが、
慣れるとそれほどでもないので、一度計算してみると練習になりますよ。

この計算については
例題などを参考にして慣れるのが一番わかりやすいので
お勧めの教材をご紹介します。

 

 

お勧めの教材

 


こちらは授乳中だけではなくて
妊娠中のお薬についての考え方なども学ぶことができます。さらに、よく出るお薬が例として多く紹介されているので、
すぐに使える内容が多く、役に立ちます。基本的な考え方などからしっかり学びたい方にお勧めです。

 

 


こちらはM/P比やRIDの実際の求め方など
計算の詳しい方法が書かれており、
練習問題などもたくさんあるので、実際にスキルを身につけたい方にお勧めです。
知識として知っているのと、現場で実際に使えるのとでは全く異なるので、ぜひ使えるスキルとして身につけたいですね。
こちらは授乳中だけではなく、腎疾患の方への薬の調整や
副作用が出た時の考え方など
現場ですぐに役立つ薬物動態がとても多いので、新人さんだけではなくベテランさんにもお勧めです。
薬物動態が苦手な方でもわかりやすいのでお勧めです。

 

 

 

 

その他参考になる書籍


こちらはちょっと大きめの本ですが、
「妊娠と薬情報センター」を立ち上げた専門家による書籍のため、とても信頼のできる資料として役に立ちます。
総論も役に立ちますが、なんと言っても1,200種類以上の薬剤が収載されています。
毎回自分でインタビューフォームなどから数字を探して計算というのもなかなか大変なので、サクサクっと安全性などを調べたい方には重宝しますね。妊娠・授乳の資料はなかなか頻繁に改訂されないのですが、
こちらは改訂3版で内容が他の資料に比べて新しいのも信頼における1冊と言えますね。個人で持っていてもいいと思いますが、まずは薬局に1冊あると安心ですね。

 

 

こちらは相談事例が10,000例というデータの多さが役に立ちます。
なかなか改訂はされないため、新しいお薬の資料は少ないのですが、
それでも十分すぎる量のデータから構成されているので、現場でささっと調べたいときに重宝します。
こちらも薬局に1冊は欲しいですね。

 

 

 

向精神薬の妊娠・授乳中の安全性について、さまざまな角度からの解説があります。
お薬を無理に辞めてしまい精神的に病んでしまうよりも
しっかり根拠をもとに治療していけるようにアドバイスができると
患者さんも安心してくれますよね。
こちらはそんな向精神薬にフォーカスを当てた1冊になります。

 

参考になるサイト

国立成育医療研究センター

こちらは有名かと思いますが、
小児や、お母さんのための情報が満載のサイトになります。

この中の

妊娠と薬情報センター

では、安心して使えるお薬の一覧などもあるので
薬剤師としてもぜひブックマークしておきたいサイトですね。

 

 

 

こちらは薬の情報は少ないですが、
女性の健康Q&Aでは様々な女性の悩みについて書かれています。
一度読むだけでもとても勉強になるのでお勧めです。

 

Noriko
というわけで、
授乳中のお薬の安全性の考え方と
お勧めのテキスト
参考になるサイトについてでした。こちらのブログに書かれた内容を
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