世界初のTRPV1拮抗薬「アバレプト®懸濁性点眼液0.3%」ってどんな薬?
今までのドライアイ治療薬とはターゲットが異なる、世界初のTRPV1拮抗薬「アバレプト®懸濁性点眼液0.3%」(一般名:モツギバトレプ、千寿製薬)についてまとめました。添付文書、PMDA承認申請資料(CTD)、KEGG医療用医薬品情報などの一次情報をもとに、2026年8月1日時点の情報で作成しています。
なぜ今、この薬が注目されている?

アバレプトってドライアイの新薬ですよね?ヒアレインやジクアスと何が違うんですか?



そこがポイントですよね。
今までのドライアイ治療薬は涙液を補う・増やす・保護するタイプがほとんどでしたが、アバレプトは知覚神経の興奮そのものを鎮めるという、全く違うアプローチみたいですよ。
基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 販売名 | アバレプト®懸濁性点眼液0.3% |
| 一般名 | モツギバトレプ |
| 製造販売元 | 千寿製薬株式会社 |
| 効能・効果 | ドライアイ |
| 用法・用量 | 通常、1回1滴、1日4回点眼する |
| 承認日 | 2025年12月22日 |
| 発売日 | 2026年4月6日 |
| 薬価 | 1瓶(5mL)577.50円(1日薬価:46.20円) |
| 防腐剤 | ベンザルコニウム塩化物 無添加 |



効能・効果は「ドライアイ」とだけ書いてありますけど、ヒアレインとかは適応にもう少し細かい条件がついていませんでしたっけ?



そうですね。
添付文書を見ると、アバレプトは「効能又は効果に関連する注意」が「該当なし」になっています。
一方でヒアレインやジクアス、ムコスタは「涙液異常に伴う角結膜上皮障害が認められ、ドライアイと診断された患者に使用すること」という限定がついています。
ここも既存薬との設計思想の違いを表しているようですね。
作用機序と開発の経緯
モツギバトレプは、三叉神経節細胞・角膜上皮細胞・T細胞に発現するTRPV1受容体を阻害し、涙液の高浸透圧や炎症性物質による刺激をブロックすることで、ドライアイの自覚症状・他覚所見を改善すると考えられています。



TRPV1ってそもそも何の受容体なんですか?



カプサイシンや熱、酸などの刺激を受け取る痛みのセンサーのようなイオンチャネルです。実はTRPV1拮抗薬は、もともと経口の鎮痛薬として開発が進められていた歴史があるそうです。
ただ体温上昇という副作用がネックになって、開発中止になった薬が多かったようですね。



じゃあ今回はどうやってその問題をクリアしたんですか?



眼局所に投与量を限定することで全身への曝露量を抑え、体温上昇のリスクを下げるという発想で設計されたようです。
そのぶん、後で出てくる温度覚に関する注意点はゼロにはなっていないので、そこは押さえておきたいところです。
有効性データ
第III相比較試験(8週間投与)では、主要評価項目である投与4週後のDEQS合計スコア(ドライアイの自覚症状を評価するスコア)のベースラインからの変化量が、プラセボ群−14.36、本剤群−16.76で、群間差−2.40(95%信頼区間:−4.72〜−0.07、p=0.0433)と統計学的な有意差が認められました。52週間の長期投与試験でも効果の持続が確認されています。



p=0.0433というと、結構ギリギリの有意差なんですね。



そうなんです。もう一つの副次評価項目である涙液層破壊時間(他覚所見)は、統計学的な有意差までは認められていません。
主要評価項目が自覚症状のDEQSスコアだったこと自体が、この薬が「自覚症状の改善」を主戦場にしていることの表れかもしれませんね。
既存薬との比較
| ヒアレイン | ジクアス(LX) | ムコスタ | アバレプト | |
|---|---|---|---|---|
| 成分 | 精製ヒアルロン酸Na | ジクアホソルNa | レバミピド | モツギバトレプ |
| 作用機序 | 保水・創傷治癒促進 | P2Y2受容体作動 | ムチン産生促進 | TRPV1拮抗 |
| 用法(1日回数) | 5〜6回 | 6回(LXは3回) | 4回 | 4回 |
| 効能の限定 | あり(角結膜上皮障害+原因疾患) | あり | あり | なし |
| 重大な副作用 | - | - | 涙道閉塞・涙嚢炎 | 該当なし |
| 後発品 | あり | あり(LXはなし) | あり | - |



ムコスタには重大な副作用に涙道閉塞があるのに、アバレプトは「該当なし」なんですね。



そうですね。現時点の臨床試験成績では重大な副作用は報告されていません。
もちろん市販後に新たな知見が出てくる可能性はあるので、そこは今後の情報にも注意しておきたいですね。
副作用と温度覚異常について
主な副作用は、眼部冷感・霧視(1〜5%未満)、アレルギー性結膜炎・角膜びらん・口の錯感覚など(0.1〜1%未満)です。
添付文書には、「TRPV1拮抗薬は血漿中薬物濃度依存的に、重度の発熱を含む体温上昇及び熱痛知覚閾値上昇等の温度覚の異常を引き起こす可能性がある」との記載があり、特に小児等を含む低体重の患者への注意喚起がされています。



熱を感じにくくなるって、火傷につながりそうで少し怖いです。



そこは添付文書でもはっきり書かれていて、「温度覚の異常があらわれた場合でも熱源を避けることができる患者であることを確認すること」という注意があります。
承認時までの臨床試験(合計690例)では、臨床的に問題となる重度・重篤な温度覚異常は報告されていませんが、リスクがゼロというわけではないので、知識としては持っておきたいですね。
適用上の注意
- 懸濁性点眼液のため、使用前にキャップを閉じたままよく振ってから点眼する
- 開栓前までは上向きに保管する(沈んだ粒子が容器内で固着するのを防ぐため)
- 他の点眼剤と併用する場合は、少なくとも5分以上間隔をあける



コンタクトレンズはどうすればいいですか?



添付文書本体には特別なコンタクトレンズの記載はないのですが、懸濁性製剤という性質上、千寿製薬のカスタマーサポート室では、レンズを外してから点眼し、装着まで5分以上あけることを案内しているようです。
そもそも治療中はメガネで過ごす選択肢も含めて、患者さんと相談するのがよさそうですね。
薬剤師としての注意点
- 肝機能障害患者での薬物動態は検討されておらず、慎重投与の対象
- 小児等・低体重の患者は、温度覚異常のリスクとベネフィットを考慮する必要があるため、処方時の年齢・体重は要チェック
- RMP(医薬品リスク管理計画)は策定されていますが、2026年8月時点で患者向け資材の登録はありません。患者説明は薬剤師からの声かけが頼りになりそうです
- 既存薬(ヒアレイン・ジクアス・ムコスタ等)との併用は問題なく、決められた点眼順序も特にありません
まとめ
アバレプトは、涙液を「補う・増やす・保護する」既存薬とは異なり、知覚神経のTRPV1受容体を直接ブロックして自覚症状を和らげる、世界初のアプローチのドライアイ治療薬です。有効性の主軸は自覚症状(DEQSスコア)の改善であり、他覚所見への効果は限定的というのが現時点でのエビデンスです。温度覚異常という珍しいタイプの注意点があるぶん、患者説明のポイントも既存薬とは変わってきそうですね。
参考文献・情報源
- アバレプト懸濁性点眼液0.3% 添付文書(2025年1月作成)
- アバレプト懸濁性点眼液0.3%に関する資料(承認申請資料 CTD 1.5〜1.8)千寿製薬株式会社/PMDA
- KEGG MEDICUS 医療用医薬品情報:アバレプト(japic_code: 00071896)
- 医薬品医療機器総合機構(PMDA)RMP提供システム:アバレプト懸濁性点眼液0.3%
- ヒアレイン点眼液0.1%・0.3%、ジクアス点眼液3%、ジクアスLX点眼液3%、ムコスタ点眼液UD2% 各添付文書
免責事項:本記事は一次情報に基づく情報提供を目的としており、診断・治療・服薬指導の代替ではありません。医療従事者の方は、必ず最新の添付文書・インタビューフォームでご確認のうえご判断ください。一般の方は自己判断で薬の選択・服用・中止をせず、必ず医師・薬剤師にご相談ください。体調に異変があれば速やかに医療機関を受診してください。本記事の情報利用により生じたいかなる損害についても、筆者は責任を負いかねます。








